2022年度以降、高等学校では「地理総合」が必修となりましたが、地理が必修になるのは50年ぶりと言われています。世界情勢から自然災害、地方創生…と、これからも変わりゆく現代社会をつかむ意義はあり、地理を学ぶ必要性が高い、という判断がありました。詳しくは、三橋浩志さんのこちらの記事が参考になります。
また、2021年度から大学入試センター試験は大学共通テストに変わり、主には暗記問題から考える問題へシフトしています。ネットで探せる情報が充実したことで、個々の記憶力はスマホやPCで代替できるようになりましたが、何を検索するか、そこから何をどう組み立てるか、といった思考力が重要になってきました。これは高校の学習課程が変わっただけでなく、もちろんそこにつながる小中学校の学習課程にも影響します。地理に限らず全科目が、総じて「覚える」学習から「考える」学習へ、緩やかに変わり始めています。
2022年の新刊は、小学校高学年から読める児童書としつつ、中高生や大人でも読める、「考える」ことで読み解く地理の新たな本を目指しました。
くもん出版 考えると楽しい地図(出版社)
今和泉隆行 著 梅澤真一 監修 発行:くもん出版
A5判 縦210mm 横150mm 128ページ
定価 1,300円+税
ISBN:9784774333373
初版年月日:2022年9月16日
主要ネット書店|Amazon|honto|紀伊國屋書店|楽天ブックス|
筆者も今回で4冊目の単著で、全て地図関連ではありますが、教育書、しかも児童書は初です。
1冊目は空想地図を扱った自伝的内容、2冊目は現代社会を読み解く都市地図趣味の穴を突いた趣味的一般書、3冊目は方向オンチ解決の実用書の文庫…この時点でも多様な方向に行くなと思いました。その次に単著ではありませんが幼児向けの絵本「いきものづくしものづくし 8」の地図の章を担当した次が本書でした。今回は学校教育課程に沿った内容も含め、中高校の学習に役に立ちつつ、大人になってからの学び直しも含めた内容を目指しました。2冊目(地図感覚)の要素を取り入れた、新しい地理の副読本…と言えるかもしれません。
小学校における地図・地理を扱う本の多くは「地図記号」か「各県の形、県庁所在地、特産品」を紹介するものです。確かに地理の授業や地図帳で記憶に残るのはこのあたりでしょうか。シンプルに覚えれば良いので、教える側も学ぶ側もやりやすい単元でもありそうです。しかし、前述の考える学習過程への変化と照らし合わせてみると、シンプルな暗記よりも地図を読み解く力の養成が求められるところでしょう。
冒頭ではさまざまな地図を紹介しますが、前半では基本的な地図の見方を紹介します。そこで地図記号も紹介します。1つ1つのトリビア的な知識を追う書籍が多くあるため、ここでは紹介しませんが、例えば森林の地図記号の共通点や、○で囲まれる施設の傾向等、地図記号の傾向を覚えておくと楽でしょう。
後半では実際の地形図を見ながら、農地の様子を見ていきます。田と畑、またその他の農作物を育てている地図記号2つが見られますが、作物によっては標高の低い川の近く、作物によっては標高の高い斜面と、その土地の傾向が異なります。それはなぜでしょう。地図記号はこうした謎を解くとき役に立ちます。各地の特産品も、こうした地理的な特徴を読み解くことでつかむ手がかりが得られます。
他にも、駅での待ち合わせや、道案内で気をつけるポイント等、移動したり待ち合わせをする際の実用的な方法も紹介しましています。地図から自分の位置を俯瞰して、現地の風景が想像できると、方向オンチにならずに済むでしょう。
また、観光するとなったときに、何箇所かのスポットを回ることになります。近い順に結ぶと楽に行けそうですが、果たしてこれがベストルートなのでしょうか。地図をよく見ると、行きやすい道、行きにくい道、鉄道やバス、フェリー等の乗り物、商店街の場所が見えてきます。地図をよく見て、回りやすいルートを取れるようになると、地図を味方につけて、楽に移動できるようになるでしょう。
最終章では「あなたが武将だったらどこに城を置くか」という問いを、地図を見ながら考えます。しかしこれには正解がありません。戦国時代と江戸時代ではそれぞれ立地の合理性は違いますし、江戸時代でもどこにできるかの傾向は一様ではありません。それぞれの合理性を想像して考えられれば、それがゴールです。その他、どこに鉄道のルートを通すか、どこにラーメン屋を開店するか、引越すならどこに住むと良いか、といった、正解のない立地の問いを、地図を見ながら考える実用的?な内容が続きます。
くもん出版 考えると楽しい地図(出版社)
今和泉隆行 著 梅澤真一 監修 発行:くもん出版
A5判 縦210mm 横150mm 128ページ
定価 1,300円+税
ISBN:9784774333373
初版年月日:2022年9月16日
主要ネット書店|Amazon|honto|紀伊國屋書店|楽天ブックス|
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