現在の現実を見るための、少し違った都市の空想
地理人(今和泉)は、鳥取県西部中小企業青年中央会にて「『空想都市米子』〜地図から読み解く〜」を実施しました。このワークショップは、会の目標をヒアリングの上、プログラムしたものです。
主催:鳥取県西部中小企業青年中央会
会場:米子コンベンションセンター (BIGSHIP)
実施日:2019年9月17日(火)
鳥取県西部中小企業青年中央会は、地域の中小企業の経営者をはじめとした会員の互助組織ですが、その業種は多種多様。共通することは米子市や境港市を中心とした鳥取県西部を拠点に事業活動をしている、ということです。今回の講演・ワークショップの他には、会員に対し、経営やまちづくり、地方自治に関するレクチャーが行われています。
最初に今和泉の自己紹介と、著書「地図感覚から都市を読み解く」から、地方都市の過去から現在までの推移、現状と未来をどう読み解くかをお話しました。しかし、それだけ聞いても、会員さんにとっては全国の都市を地図から読み解くことがミッションではなく、地元(米子を中心とした地域)をいかに読み解くか、ということです。
とはいえそれは、一介の他所者が評することではありません。地元のことは、地元の人のほうが知っています。では私は何ができるかと言えば、他の都市を知っていて、他の都市と比較する観点や、比較して見えてくる利点や課題が見えるということです。それを私がお話するのもひとつの方法ですが、それよりは、この過程を一人ひとりが体感し、考えるきっかけを提供したほうが良いと考え、今回のプログラムに至っています。
しかし他の都市の例を並べたところで、初見で地図から都市の様子が読み解けて比較できるのは、いわば地図感覚を持った人に限られます。そこで「現実とは少し異なる米子の姿」を4パターン、地図化にしてみました。現実をもとにした空想地図です。
その前に、実際の米子市街地の地図を見てみましょう。
地図の左は海(中海)で、右下にJRの中心駅である米子駅、中央上に中心市街地があり、ここに高島屋や歓楽街があります。米子駅周辺もイオン(旧サティ)やビジネスホテルが多く、後天的に市街地になったことが見えてきます。高島屋周辺が旧市街、米子駅周辺が新市街、といった構図も読み取れます(ここから先ではその町名、角盤町と記します)。角盤町と中海の間は寺院が多いですが、寺院以外も古くからの建物も多く、歴史的景観が楽しめます。米子城址は建物が現存しないため、ちょっとした森林公園の様相ですが、石垣は残っています。
それでは、この現在の米子とは異なる4つのパターンの米子を地図で見てまいりましょう。
A〈米子駅が海側にある〉米子市街地
米子駅が、中心市街地に対して東側(左側)にある空想です。メリットは、(1)米子駅から、海や城址、昔の景観が残る灘町といった観光拠点が近いこと、(2)米子駅と角盤町までの間にこうした観光拠点があるので回遊性が生まれやすいこと。デメリットは、(1)市街地と海の間は鉄道で隔てられるため、街から海への導線が生まれにくいこと、(2)山陰本線が大きく迂回することで距離が伸び、カーブも増えるので所要時間が増えること、です。
B〈米子駅と市街地が近い〉米子市街地
駅と駅周辺にできる新市街と、角盤町を中心とした旧市街が近く、それらが徒歩で回遊できる範囲にあり、実質的に1つの市街地にまとまる空想です。メリットは、(1)米子駅と本通商店街、角盤町が徒歩圏となり、回遊性が生まれやすいこと、(2)こうした回遊性が生まれることで、街の密度は上がり、集客力も生まれやすいことです。デメリットは、(1)街が凝縮するため、市街地の面積は狭くなること、(2)市街地は大型商業施設や宿泊施設が密集し、地価が上昇。個人店にとってはハードルが上がることです。
C〈城下町時代の街路が残る〉米子市街地
こちらは、AやBとは異なり、米子駅や鉄道の位置は変わりませんが、旧城下町の範囲は道路が狭く、江戸時代のままの道路網となっているものです。代わりに城下町の外側の道路幅を太くして自動車の通過交通量に対応しています。メリットは、(1)濠も含めた米子城の遺構が残り、観光資源になる可能性が高いこと、(2)古い建物が残り、レトロな景観やこだわりのある店舗が集まりやすいことです。デメリットは、(1)市街地の道路が狭いため、東西の交通渋滞が深刻となること、(2)市街地の道路交通が貧弱になるため、車での集客力が乏しくなることです。
D〈皆生温泉が市街地に近い〉米子市街地
実際は米子駅、米子市街地から4〜5kmは離れている皆生温泉ですが、これが米子市街地至近となった米子市街地です。地形を変えているので、最も現実離れしたものですが、愛媛県松山市は市街地と道後温泉が近く、路面電車で行き来できるので、こうした街は現実にないということもありません。メリットは、(1)米子市街地と観光拠点である皆生温泉の回遊性が生まれ、市街地に観光客が集まりやすいこと、(2)皆生温泉はJR境線でのアクセスが可能となり、米子空港や境港市との回遊性も生まれやすいことです。デメリットは、(1)海が近くなることで陸地面積が減少すること、その結果…(2)住宅地は北西部ではなく南東部に広がり、南東部が人口の重心となり市街地に人が集まりにくいことです。
・現実の米子と何がどう違うか
・起こることや風景の違い
最初のワークでは、4〜5人の各グループで、この4つの「異なる米子の地図」をもとに、以上の2点をを考えます。圧倒的に多かった意見は「車での移動」です。どのグループでも「これだとここが渋滞する」と渋滞を第一に問題視しましたが、むしろ現状の米子への指摘としても同時に挙がることでした。地方においては車は欠かせない移動手段であることが分かります。
中心市街地と車移動の課題は全国共通で、まず駐車場不足は全国どの都市も共通しています。市街地内の目的地と駐車場が遠い、駐車場料金がかかる、といったことはどこでも常に起こることです。こうした問題の解決が「中心市街地活性化」につながるかと言うと、つながる面もあれば、つながらない面もあります。
無料駐車場を備えると集客力が上がることも多く、駐車場不足と駐車料金は解消したほうが集客力につながります。しかし、渋滞対策として、車の通りやすい太い幅の道路を作ることには、メリットとデメリットがあります。市街地に来やすくなる反面、中心市街地が目的地でない通過交通量が増え、新たな渋滞を生む可能性があることや、拡幅によって古くからの建物が失われ、無機質な景観になること、通りが大きくなればなるほど通りの向かい側との連続性が絶たれ、地域のつながりや回遊性が失われるといったデメリットもあります。車では通りにくい街は、案外賑わっていたり、観光地になっていることもあります(近隣だと松江市)。
道路交通面以外でもさまざまな意見が出ます。例えばAの地図は、米子駅が海側になるため海側が活かせる、公園があったら良いスポットになりそう(現状、海側は集客力を持たないだけでなく観光資源にもなっていない)という意見も出ます。昔の景観が残る灘町だけでなく米子城址が近いことも、観光資源としての拠点性を高められるだろうという意見もありました。
Cの地図は、江戸時代の街路がそのまま残るので、道路交通面では課題を多く残しますが、実際これと近い状況にあるのが松江市です。米子市においても米子市役所や山陰歴史館は古くからの建物で、美的な存在感を持っていますが、そのあたりはCの地図だとより古くからの建物が残り、良い景観となるだろうという意見も出ました。
次のワークで、さきほどのA〜Dの米子のエッセンスを、現実の米子で活かすには、何をすると良いか、というワークを進めます。
さきほどの市役所と山陰歴史館については、現実の米子でも古くからの建物が残ります。ひとつの建物、点だけで見ると「古くからの建物」でしかないものの、一帯を「古くからの景観が残る地区」と捉えると、これらと相性の良いものとして、人が集まるスペース、カフェやギャラリーがあると人は集まりそう、という想像も湧いてきます。このように、複数のスポットの印象を「面」で捉えると、潜在的な地域資源を発掘するきっかけにもなります。
また、Dの「皆生温泉が近いパターン」については、JR境線を皆生温泉回りにすることで、米子駅〜皆生温泉〜米子空港〜境港駅(現在水木しげるで活性化している)というつながりは地域にとっても大きな価値があるので、JR線のルートを変えるという案も出てきました。なかなか実現可能性の高い話ではありませんが、どの場所同士がつながり、どんな線(回遊性)を生むと良いか、といった議論を生んだことは、地域の今後を考えるにあたって価値のあることでしょう。
次回の開催情報
上記のプログラムは一般公開イベントではありませんでしたが、一般公開イベントを開催する場合はFacebookページ(地理人)でお知らせします。
ワークショップを実施したい団体様へ
こちらのプログラムは全国どの地域でも実施可能ですが、事前に色々なパターンの地図をこちらで作る必要があります。詳細はこちらからお問い合わせいただければと思います。